• 2017/01/24

    週刊ツクール 特別臨時号

    今回は特別臨時号!
    2月に予定しているツクール向け音楽素材集『The Calm』と『The Fury』
    発売決定を記念して、コンポーザーである菊田裕樹さんのインタビューをお送りいたします。
    ※ 楽曲の先行視聴は上記リンク先から可能ですので、是非聴きながら読んでみてくださいね。

    数々のゲームにて名曲を手がけた著名コンポーザーであるだけではなく、
    ゲームデザイナーとしての経歴もお持ちの菊田裕樹さん。
    ゲーム音楽製作、もといツクールにもつながるクリエイティブな活動全般における秘訣など、
    ご自身の貴重な体験談も交えて大いに語っていただきました。

    ツクラーの皆さんにとっても何かしらのヒントが得られる、そんな1万字超え独占インタビュー。
    ぜひともお楽しみください!

    インタビュワー: デジカ担当者


    今回の曲たちについて、作っているときにどんな思いを込められたか教えていただけますか?

    菊田もともとはオンラインゲームのために作った音楽ではあるんだけど、そのゲームが”何でもあり”な世界観のゲームだったんだよね。そこに遊びに来る人たちがいかに自由に自分を表現できるかがテーマになっているゲームだった。だから音楽も、固まった世界を表現するんじゃなくてそこで遊ぶ人たちをいろんな形で応援する、そういうイメージがもともとあった。
    そのゲームは基本的にMMOのようなゲームだけど、あれこれ着せ替えをするのが楽しくて、とんでもない格好をした人たちが集まるゲームになったんだよね。本当、ゲームの中のスクリーンショットを見ると、「これは狂ってるな」っていう。その人が本来、持っている変な趣味や性格を、そのまま出しましたみたいな、そういうよく分かんない物が許されている。だから「どっかの世界にはまる」っていうよりは「そこで自分を表現できる」、そのための音楽でもあったね。

    RPGツクールというのはもともと、表現者が自分の好きなことを表現できるという面があるので、結果的にはマッチしているのかなと思いました。

    菊田かもしれないね。だから、今回の曲の集まりは「統一感がある」っていうよりは、割と自由な感じがするじゃない。僕自身は縛られず、いろんな自由な可能性を乗せていきながら作っただけ。

    曲を作るときって、何か「縛り」があったほうが作曲しやすいんでしょうか?

    菊田しやすいか・しにくいかってことはないと思う。テーマが違うっていうことだからね。何かの世界を表現するための音楽もあれば、そうではない、自由を表現するための音楽もある。
    僕らは職業音楽家だから、求められたものを作るのが仕事。つまり何を求められているのかっていうところに、ちゃんと応えていくことだね。

    今回の音楽の依頼の経緯について、エピソードがあれば教えていただければと思います。

    菊田もともとは僕の友人が経営していたゲーム開発会社があって、そのオリジナルゲームに向けた曲でした。自分たちでどのぐらいのものが作れるかも分かんない中で、何か面白いものを作りたい、そういう話だった。そういう流れって面白いじゃない。何か決まっているとこを目指すんじゃなくて、「何だか分かんないけど面白いものを作りましょう、すてきなものにしましょう」っていう気持ちがある現場っていうのは、僕はとても好き。
    これは自分たちのゲームなんだ、自分たちがゼロから作ったゲームなんだって思ってやると、全然、現場の気持ちが盛り上がってくるね。


    ところで、ツクールのユーザーさんって、”未完成のプロジェクト”という経験を持っている方が多いんです。途中で失敗してしまったり、チームが解散してしまったりとか。それをなるべく良い方向に、士気を上げることができるのかというアドバイスはありますか?

    菊田ゲームだけじゃないのかもしれないけど、開発って駆けっこじゃないですか。出発点があり、ゴールがある。「出発点からゴールまで走るよ」って言って走っていって、「着いた、やった」っていうのが開発だから。逆に考えたら分かるんだけど、それが終わらない可能性って1個しかなくて、「ゴールがない」っていうことだね。
    出発することは割と簡単にできるけど、大抵ゲームが完成しないっていう人たちの一番大きな問題は、「ゴールがどこか分かってない」っていうことだね。

    もしくは、みんなばらばらなゴールを持っていらっしゃる。

    菊田そうですね。駆けっこですって、スタートした瞬間にみんな散って行って「さいなら」っていうことは結構多い。

    最初に目的を共有したり、ちゃんとしたゴールを設定しておくことがすごく大事なアドバイスなんですね。

    菊田だから、ゴールを決めておかなければ、みんながそこに到達するわけがないんです。もしくは、誰かがどこかに旗を立てればいい。要するに、「どうなればゴールなのか」っていうことを分かるってことがまずとても大事。
    やっているうちにバラバラになることもよくあるんだけど、なぜかというと、個人個人にとってそのゲームを開発することの意味が違うからなんだ。それが全然別々だと足並みがそろわず、すれ違いが起こる。だから、何が必要かというと、まずスタートするときに全員で集まって一人一人のメリットとデメリットを全員で知る。例えば、何カ月間このぐらいの仕事をする、その結果、自分はお金かもしれないし、名誉かもしれない何かを手に入れるか、あるいはこういうことが可能になる、とか。個人個人でメリット・デメリットが違うから、その分量が釣り合ってないと後で不満が生まれる。そうすると、「あいつは合わない」、「最近、自分は・・」という感じで言い始める。それがないように、必ず最初にその人たちの釣り合いを取るということね。全員が全員のメリット・デメリットに納得して、手を合わせて「一緒に頑張ろう」ってなったら完成する。
    特にプロはお金でそれを代替するからそんなに問題は起きないけど、アマチュアの場合はお金じゃない分だけ難しくなるから。

    それでも長期的なプロジェクトなどの場合に心がぽっきり折れてしまうこともあるんじゃないでしょうか?最初はしっかり目標を持っていたとしても、各自のいろんなモチベーションが変わる可能性もある。

    菊田一番大事なことはモチベーションを上げないっていうことだね。上げたら必ず下がるから。

    フラットのほうがいいということ?

    菊田そう。ただ、これはなかなかアマチュアには難しいから強要はしない。絶対的なプロの心得だと思ってください。
    僕の仕事を考えたときに、例えば100曲の音楽を作るとするね。それって全部同時にはできないじゃん。そこでもし波があると、音楽に波ができる。「この曲はすごい良いと思うけど、この曲はいまいち」っていうことがある。それはプロとしてあり得ない話だね。
    全部の仕事に均等にバランスを取って、全てのクオリティーを統一しなければ、それを使う側が困ってしまう。だから、テンションやモチベーションを上げるのはいいけれど、上がったモチベーションは必ず下がるから、下がったときにどうしようもなくなる。
    夏休みの宿題をやるのと同じように、同じ調子で毎日ちゃんとやる。だから、完成させるためにはそれしかない、特に半年を超えると盛り上がってられないから。均一に毎日同じ調子で、同じ心意気で安定してやるっていうのが最も大事なことだね。
    例えば編み物でマフラーを編むじゃん。今日、すごい勢い込んで編む。でも、次の日はだらだら編む・・・っていうとマフラーがメチャクチャになっちゃう。僕らの作るものはちゃんと全部のバランスが取れてることが大事で、自分の個人的な調子や気持ちが入っちゃいけない。

    そういうところが音楽を職業にされている人と、趣味で作られている人の大きい違いなんですね。

    菊田最も大きい違いだと思う。スケジュールに間に合うっていうことは重要なことだから。


    次の質問に進みまして、今後、趣味やインディーズ、同人で音楽をやってらっしゃる方、もしくはゲームを開発されている方々がどんな方向に行くのか、業界を見て感じていることがあれば教えてほしいと思います。

    菊田僕はたまたま今、職業音楽家としてプロっていう立場でやってるけど、”物を作る”っていうことに関しては誰が作っても同じ”モノづくり”なわけね。僕はプロとしてもやってるけど、同人もやってるんですよ。仕事としてやる場合はニーズにちゃんと応えたものを作る。予算、スケジュール、クオリティー、全部がそろった形で求められたものを作るのが仕事。同人でやる場合には純然たる自己表現だから、自由であるということがまず最初にあって、その中で自分の力で何ができるかっていうのを探っていく。だけどどっちも欠けちゃいけないと思う、姿勢としてはね。
    さっき言ったことと重なるけど、同人のスタンスだけでやると完成しないことって多いのよ。だってある意味、完成させなくてもいいことが同人の特権なわけじゃん。仕事ではあり得ない話だから。そういう意味では、完成させなくてもいいっていうことも楽しみのうちではあるとは思うんだ。ただ、もし完成させたいんだったら、ある程度、仕事的な感覚も持つべき。本当は、両方あるのがいいっていうこと。
    僕はもともと同人をずっとやっているから、アマチュアとして、あるいは自己表現としてものを作っていることはとても楽しいと思うし、その魅力を手放したくないというか、それは自分の中の基本的なものだと思っている。逆に「プロです」って言ったって、その”自己表現”の部分がなくなっちゃったら、出来上がるものにはやっぱり魂がこもらなくなってしまう。必ずその両方の側面は必要だと思うね。
    例えば、1人の創作の中でやっているんだったら、その部分って何となく混ぜてやっていける部分だと思うけど、何人かでやるってなっちゃうと途端に難しくなる。でも、そういうことがどんどん可能な時代になってきたじゃないですか。ツールも安くなったし、プロと同じ道具をみんな、使えるから。音にしろ、絵にしろ、プログラムにしろ。機材とか環境という意味ではプロとアマの垣根はないですよ。

    僕らが1996年辺りの時代ってまともなCGが作れるコンピューターはとてつもない値段がしたんです。1500万円とかした時代。ソフトも200万円ぐらいする時代。1台ですよ。それが何十人分も要るわけ。そんな性能をはるかに今のマシンは凌駕しているわけですよ。そういう意味では全く比べものにならないぐらいアドバンテージがあるんだよ、過去と比べちゃうと。
    だから、個人が本当に自由に物を作れる時代になったんだね。それを発表する場すら今はある。そういう意味で自己表現の天国だって思うから、今この天国を活用する、めいっぱい使うことをしないなんてあり得ないと思う。

    確かにVOCALOIDとかいろんなツールが出てきて、ニコニコ動画にすぐ上げて・・・みたいな流れはありますね。絵もそうですし。結局、ツクールも多分、そのうちの一つなのかなと思うんです。

    菊田例えば2000年より前はインターネットがまともに動いてなかった。たかだか16年前に何にもなかったの。でも今、何でもある。この違いってとてつもない違い。今、どれだけの物に恵まれているかっていうことをちゃんと理解するのがまず、スタートだと思うな。

    確かにおっしゃるとおり、表現者にとってはチャンスが多い時代だと思います。逆にこんな感じで成長し続けたら、どうなっちゃうのかなっていうのはありますね。

    菊田もうそれは現実に起きている。絵の投稿サイトなんかを見るとみんな絵がうまいわけ。とてつもない量のとてつもないうまい絵描きが生まれた。その競争の怖さだよね。あの中で抜きん出ていくことなんて到底考えられない、怖くて。

    場が増えて、いろんな才能を持っている人がツールを気軽に使えるようになった結果、競争自体はすごく激しくなっていっていると。

    菊田そう、激しくなった。だから、自分が絵描きじゃなくてよかったなって、これは本当にそう思う。すごい才能を持った人間がそこに集まってくるわけじゃん。その競争って本当に信じがたいぐらいの圧がある。そして、絵描きは日本人だけじゃないんですよ。今増えているのは中国人の絵描き。すごいうまいんだよね。

    うまい。

    菊田そして、彼らは日本人の何十倍もいるんだよ。

    怖いですね。

    菊田あっという間だからね。だから、その中で何を表現するのっていったときに、それは個性しかない。だから、クオリティーはあって当たり前になる。すぐにそうなる。みんな、きれいなものにはすぐ飽きるから。”そうじゃねえんだよ”っていうところに、必ず行くんだよね。


    菊田さんは25年間、音楽家として勤めていらっしゃったと思うんですけれども、入りたてのときと今との違いとか、自分自身の心の違いとかはありますか?

    菊田単純に僕が始めた頃なんて、音楽でご飯を食べるっていうことの可能性が低かった。まともに大学出て、会社に入ってちゃんと勤める・・・っていうことが普通の人生じゃない。そうじゃない人なんて全部当時は、人間のクズですから。人間のクズはクズなりに、何かしら面白い、それに見合うことをやっていく・・・っていうのがあったからね。
    その中で僕はもともと絵を描いていたんだけど、絵で結局、食えなかったから。とりあえずここから何かやっていこうと考えて、会社に入って仕事するかなと。そのときに、人に聞いたんだけど「会社員で音楽を作って飯が食えるらしいぞ」って、ゲームの仕事だとそういうことがあり得るらしいって聞いてね。ゲーム開発に関する情報なんて全然なかったし、全く分かんないんだけど、一応、求人募集の広告が出ているからそれに応募してみれば可能性があるんじゃないかと。
    もともとその時点で自分が何も成し遂げてないから、そういう意味では自由ではあるね。割と「人生どうでもいいや」って思ってる感じ。
      履歴書と、カセットテープに音楽を作ったやつを入れて応募したんだけど、そのとき、後で聞いたけど100人ぐらい応募が来たらしい。

    そのときに入ったのって菊田さんだけですか、100人のうち。

    菊田そう。

    それはすごいですね。
    作品をどんどん世に発表していく中でそのマインドセットって変わったりしたんですか?

    菊田入ってみたら会社じゃなかったんだよ。入るまでは会社だと思っているわけよ。会社ってサラリーマンで、定時にスーツを着て出勤して、XX時になるまで一生懸命やって、XX時になったら帰って、っていうもんだと思ってたわけ。でもそういう部分が、あの会社には一切なかった。スーツ着ているのは俺だけ。

    他はTシャツとか、そういうことですか。

    菊田そう。だから、スーツ着て会社へ行ったら、「俺、おかしいぞ」みたいな。入ってみたら会社じゃなくて、大学のサークルみたいなもんだったんで、これは楽しいと。これは俺がいろいろ楽しくできる場所なんだって思った。
    作曲するのに決まった機材はなくて、一応シンセサイザーは置いてあるけど、それで何ができるって話ではないからね。ただMIDIのデータをMMLみたいなものにして縮めていくんだけど、それは誰もやってくんないから自分でやるんですよ。自分でコマンドを打って、縮めてどんどん小さくしていって・・・ていうのは自分で全部やっていましたね。
     だから、作曲するのはそんな時間かかんないけど、データを縮めるほうがものすごい手間がかかるからね。

    それに比べると、当然、今、表現の幅は広がっていますね。

    菊田広いけど、それはクオリティーとはあんま関係ないっていうか、要するに、機材が良くなったから音楽も良くなるって話ではないからね。


    次の質問です。菊田さんは25年もゲーム業界に勤めていらっしゃいますが、入った当時と今、業界で大きく違うところは何でしょうか?

    菊田今、業界に入る必要なんかないんじゃないと思う。もうそういう必要がない世界になったんじゃないかと思うけどね。

    わざわざ入らなくても表現の場がたくさんあるからっていうことですか。

    菊田たくさんあるからね。だって、昔はハードが決まってて、それを通さないとリリースできなかったわけだからそういう業界ができるのは仕方がないよね。でも、今はそういうものなくても発表できるし、例えばSteamみたいなものがあるんで、そこで商売することもできちゃうようになった。だから、むしろ自分たちが業界を作っていくっていうぐらいの考えでいいんじゃないかと思う。

    確かにSteamについては、個人制作も面白ければヒットしてしまうっていう時代になってきています。おっしゃるとおり、会社に頼らなくてもいいというか、看板に頼らないというか。

    菊田昔はそれしかなかったから、その世界が中心だったけど、今はどんな形でもリリースできるんだったら、どんな可能性でもあるんじゃないの。ただ、それをやろうと思うんだったら、安定とか安心とかそういうものは求めちゃいけない、そんなものはどこにもないんで。
     だから、そこはすごく変わったところだろうね。表現の場があるし、制作のハードルもめちゃめちゃ下がったし。ちゃんとリターン、つまりお金が入ってくるような仕組みを作れる。全部いいとこばっかじゃないとは思うけどさ。

    業界に入っていくっていうよりは、それ自体が要らないような世界になっちゃったと。

    菊田業界に入っていくっていう発想で言うと、あんま楽しくないんじゃないかなとは思う。「業界に入った、満足」っていう人はいいかもしれないけど、そんな楽しいことじゃないから、業界の中での仕事っていうのは。だから、もし楽しいっていうのを求めるんだったら、自分で何もかも考えていくほうが楽しいんじゃないかなと俺は思う。

    ただし、そのためにリスクを背負わないといけない。

    菊田そう。リスクもあるけどメリットもちゃんとあるよっていうことを自分でやっていくほうが人生が楽しいと俺は思うんだけどね。仕事がというよりは人生が楽しいと思うんだよね。

    確かに。


    ビデオゲームの音楽に特化してやっていきたいと思っているコンポーザーの方にアドバイスできること、何かあればいただきたいと思います。

    菊田作曲っていうひとくくりでは駄目で、アニメにはアニメの作り方、文法とか仕組みがあるし、映画には映画の仕組みがあるし、ゲームにはゲームの仕組みがあるから、それをちゃんと理解してないと最適な仕事はできない。

    ゲームには作り方があると言いますが、どうしたらそれが学べるのか分からないという人もいるのかなと思います。

    菊田そうだけど、本来的には今僕が言ったことも教えてもらった話ではなくて、自分で考えて生み出した話だからね。例えば、アニメの音楽、”劇伴”ってあるじゃん、やったことあるけど、一曲一曲の依頼じゃなくて、何十曲っていうのを「せーの」って作って、どさって渡すわけ。だから、一つの枠のアニメに対して100曲ぐらい作るんですけど、”何とかA”、”何とかB”みたいな感じで適当に発注が来る。そのときに「どういうふうにすれば使いやすいか」っていうことを考えながら作るの。
    その曲はアニメ全体の中のどこで使われるか分かんないわけじゃん。それはきっと、絵に合わせて使われるかもしれない。そのときに三つの使い方があるわけ。それは、頭でタイミングを合わせる使い方、そして、ケツで合わせる使い方、それと、真ん中のサビで盛り上がりで合わせる使い方がある。つまり、カット頭で動いた瞬間に音が鳴る曲。それから、カット終わりできれいに終わってカットオフっていう使い方。それから、アクション切り替わる瞬間にサビが来る使い方。三つがある。つまり、音楽は3種類、必要ってことよ。
    だから、頭が印象的な曲と、ケツがきれいに終わっている曲と、真ん中で切り返しの盛り上がりがある曲の三つが必要なわけ。
     これはアニメの音楽を作るときのノウハウ。アニメの演出をする時には、必ずこの三つのうちのどれかで作るに決まってるから、音楽もそういうふうになってないといけない。

    そうすると、ゲームのほうは例えば、RPGの戦闘シーンだと、短いループでずっと弾いていないといけないから、テンションをそのまま維持できるような曲になりますか?

    菊田そのとおり。いかに使うか、受け手はどう考えるか、使い手もどう考えるか・・・っていうことを考えた上でその要素が成り立ってないと、使えなくなっちゃうんです。そういう意味で、ゲームにはゲームの使い方のノウハウがあるから、それに合わせた形で構築していくっていうことが最も効果的に音楽を使ってもらうということ。
     RPGなんかゲームを買ってきてからいきなり50時間とか聞くわけじゃん。僕らはCDを買って、それを50時間も聞くかというと、聞かないよね。2、3回聞いたらすぐにケースにに入れて棚に突っ込んでおしまいだよ。だから、僕らは50時間、聞ける音楽を作んなくちゃいけないわけよ。とても特殊なニーズだよね、ゲームの音楽っていうのは。


    その中でも菊田さんの音楽ってブランドというか、個性みたいなものがあると思っています。目立つためには個性を出すことが大事と言っていますが、とはいえ、ゲームに使うっていうニーズにも合わなきゃいけない。そのバランスが上手くできる人が、ゲームコンポーザーの中で頭角を現してくるんですかね。

    菊田そうだね。極端なことって確かに目立つけど、逆に言うと、誰でもできることではあるから。でも、本当に大事なことというのはバランスを取ることだから、そのバランス感覚は大事だなとは思うね。

    そういうバランス感覚は、RPGを「なんでだろう」って考えながらプレーすることで養うんでしょうか?

    菊田そう、考える。自分は今、何を表現しているのか、このゲームは何を表現しているのかってことを。今、ユーザーは何を考えている、どんなことを感じているんだろうっていう想像力を使うんです。イマジネーションっていうのは、「何かよく分かんないものを思い付くこと」ではない。違う。「人は今、どう感じているんだろう」っていうことを想像することなんだね。人の気持ちになって考えるのが想像力だからね。だから、この音楽を聴く、このシーンを見る、そのときに「見ている人は今、何を感じているんだろう」という気持ちをちゃんと生きた状態で想像できなかったら、演出ってできないじゃないですか。それは単に一方通行で投げているだけになっちゃうから、受け取り手の受けている瞬間の感情を思いながら投げる・・・っていうことが僕らには必要なんだね。
     そしてさらにそれをちょっとだけ外すんだよ。

    ストレートにミートさせるのではなくて?

    菊田時々ちょっとだけ外すんだよね。そうすると、「こう来る」と思って構えているミットの横をすり抜けてそいつに当たるわけ。それが大事だね。

    やっぱりゲームってエンターテインメントですから、「人を楽しませる」とか「驚かせる」とかがもとにあるんですね。その「ちょっと外す」っていうのをやっていくと、「おっ!」ていう引っ掛かりが生まれるのかなって。

    菊田そう。つまり、真っすぐだけだったら真っすぐ行くものになっちゃうじゃない。でも、そうではないものが入ることによって、人の心をコントロールできるっていう、それは打者と同じ。だから、直球だけ投げてたらやっぱりそう来るなと思って、打たれちゃうじゃん。でも、投手ってカーブとか他の球を併せることによって打者の心をコントロールしようとするじゃない。それが大事だね。
     音楽って何かという話をすると、例えばドっていう音が鳴るじゃん。これを音楽かっていうと、音楽ではなくてまだ音だよね。次にミって鳴った。これは確かにドとミが鳴ったから音楽みたいな気がするけど、俺はこれはまだ音楽ではないと思う。ド、ミって鳴ったときに次に何が鳴るかなって思う、人間は。ド、ミ、ソって思ったでしょう。

    はい、思いました。

    菊田その心の中でソって思ったのが音楽なの。だから、音楽は今、鳴った音じゃなくて次に何が鳴るかなって思って心の中で鳴るのがその音楽なの。

    さっきの「外す」って話は、その次に何が来るかを予想から外すということですか。

    菊田そういうこと。だから、ド、ミって鳴らされて、ソって想像しちゃうことが音楽ってことなんだよ。これが人の心をコントロールするっていうこと。だからこそ、ド、ミ、ラって鳴ったら「あれ?」ってなるじゃん。それは、自由に人の心を操るってことと同じことだから。だから、音楽っていうのは今、鳴った音じゃなくて次に鳴る音なんだよね。だから、僕らがそれを作んなくちゃいけない。

    すると、単に音楽を、ゲームだろうがアニメだろうが、文法だったり音楽の作り方だけを分かっていればいいんじゃなくて、人の心をわかる必要があるということ。

    菊田そう、心。だって、心に届かなかったらどんな音だろうが作品だろうが意味がないから。

    忘れられてしまう。

    菊田そう。覚えていてもらうことが全てだからね。

    もともと人間の記憶って結構、不思議につながっているんですね。10年ぐらい聞いてない音楽をいきなり聞くと、10年前の記憶がよみがえっちゃう。

    菊田そうなんだよね。例えば20何年前の夏に出ているゲームがあるとする。そうすると子どもたちが夏休みに兄弟と一緒に「暑い」って言いながら遊んだその空気とか全部、ワンパッケージになって入ってるわけ、そのゲームの記憶の中にね。

    そうなると、音楽はとてつもない力を持っていますね。

    菊田そうなんだよ。それはその人にとってとても宝物になり得るじゃない。僕らが作っている、あるいは作らなくちゃいけないのはそういうものだと思うね。
     だから、ビデオゲームとか音楽って何が駄目なのかったら忘れられちゃう音楽は駄目な音楽だよね。覚えていてもらえないっていうのは駄目だと思う。僕の作ったものをだって、いまだに20何年たってまだ覚えていてくれるわけだから、それはうれしいと思うよ。

    さっきの話で「量が多くなって、競争が激しくなった」っていうところに対して、今、一つ、解答が見えたような気はしました。記憶に残ることが一番。

    菊田記憶に残ることが大事だね。みんな、そのための方法を自分なりに探していくのがいいと思うね。


    次の質問は立場を変えた質問になります。ゲームそのものを作っている開発者の視点から、菊田さんのようなコンポーザーに依頼を出すことがツクールのプロジェクトなどでもあると思います。そのときにどんな情報や、どんな共有があればうれしいか、どうやってコミュニケーションを取れれば曲が作りやすいのか、態度やプロセスについて教えてください。

    菊田まず、一番に重要なのは信頼することですね。信頼できない人には頼むなっていうことがまずある。信頼するからには任せるっていうことでもあるし。
     例えば、そのゲームを作る上でディレクターとして何を表現したいのかっていうことを教えてもらわないといけない。「楽しい音楽」とか言われても、そんなことを聞かされてもしょうがないんだよね。もっとユーザーの心に、あるいは受け手の心にどんな印象を与えたいのかとか、どんな感情を巻き起こしたいのか、それもできるだけ生々しい感じで。

    あまり経験のない人がやりがちなのは、まずゲームをプレイさせてから『これに合わせて作って』と依頼してしまうことが多い。逆にあまり経験のないコンポーザーだと毎回『まずゲーム見せて』言っちゃうとか、そういうのがあるのかなと。でもそれって不可能ではないですか。例えば、ゲームを全部をプレーするなんて、同時に依頼がいっぱいあった時なんて時間的に不可能と思うんですけれども。

    菊田ただ、実際に動いている画面は欲しい。なぜかというと、そのプレーするテンポとかキャラが動いたりするのは生理的なリズムなので、それに合わせるほうがいいからね。
    自分で操作して動いている昔のゲームって結構、間があったんで、曲のテンポはそこそこ遅めだったんですよ。ところが今、ソシャゲって速いの。とにかく間を詰めてってやっているから、昔のテンポで作ると遅いんだね。だから、ソシャゲのゲーム音楽は、全体に速く作る感覚になってきている。これは画面を見て作らないとやっぱ分かんない。昔の感じで合わせると「なんか遅いよね」ってなるんだね、不思議なことに。
     「この曲みたいに」っていう依頼は一番良くない。自分の思ったとおりにしようとしても無理っていうことね。ディレクターが本当に自分の思ったとおりの音が欲しいんだったら、「おまえ、作れ」っていう一言しかないんで。だから、ディレクターは、自分の思ったような音楽は何をどうやったってできてこないよ・・・って理解するところからスタートしてくださいっていう話。

    そこもさっきおっしゃったように信頼が必要なんですね。

    菊田そう。そして、本当に有能な作曲家はディレクターが思ったこと以上のものを作ってくるから。それはあなたの思ったものとは違うかもしれないけど、あなたが思ったものよりもいいものです。だから、それを受け入れなさい。
     違うところを直そうと思っても無理なのよ。だって、実はディレクターの中で鳴っている音をそのまんま作っても駄目なんだもん。合ってないんだもん、実は。それは本当にディレクターは気付かないのよ。テンポが違ったり、仕組みが違ったりして、合わせてみると違うじゃんって必ずなるんだよ。だって、音楽に関してはディレクターって素人だもん。

    餅に餅屋ってこと。

    菊田特に音ってとても微妙なデリケートなもんだから、実際に試行錯誤していかなくちゃ分かんないことがいっぱいあるんですよ。だから、残念だけど、ディレクターの頭の中で鳴っている音は実際には合わない。

    これは多くのユーザーにとって、すごく重要なメッセージだなって思います。これで救われるコンポーザーの人も、うまくやっていけるようになる人も多分、いると思います。

    菊田いるかもしれないね。


    では、クリエイティブな活動をしているような人たちに何か一言いただきたいと思います。

    菊田「ユーたち、やっちゃいなよ」みたいなことかね。だって、さっきも言ったように、ハードルは下がってるし、場所はあるし、チャンスはあるし、時間はあるわけじゃない。とにかく作るしかないよね。
     割と簡単に言うと、3人でやりなさい。

    それは1人だと暴走するからとか、そういうことですか。

    菊田1人で物が作れる人は別に助言なんか必要としてない。僕が何か言う必要なんかないですよ。その人が黙々と全部、作るし、誰のことを見なくても何を聞かなくても、その人は1人で作るから、触る必要がない。要するに、こういう一言を必要とする人っていうのは1人では作れない人じゃん。そういう人が必ず陥るトラブルとか状況を想定すると、まず一番言えるのは3人で作れっていうこと。
    大体、企画を立てたり何かを考えるときには2人がいいんですけど、2人って話して満足しちゃう、おしまいになっちゃうんだよね。とにかく2人の難しいとこっていうのは、両方の意見が同じになると、「そうだ」って盛り上がってそこで満足して終わっちゃうのと、意見が違うと違ったまま別れておしまいになっちゃう。どっちもおしまいになっちゃうんだね。だから、2人っていうのは話して面白いのはいいけど、物を作るには適してない。
     3人になると、必ず意見って3人合わさるか、もしくは2対1になるかって話なので、2対1の場合は2が勝って1を引っ張っていくから動くんだよね。まず、大抵、3人まとまることはないので、大体において、2対1で物事が動いていって、最後まで行けるっていうことがよくあるんだよ。

    かなり実践的な言葉ですね。

    菊田これは逆に言うと、物語の書き方と同じなんだよ。物語を書くときにキャラクターの、登場人物の数を奇数にしないと駄目っていうことを教えているんですけど、物語も同じなんだよ。AとBと出てきて、意見が違ったら別れておしまいだし、一緒になったらそこでおしまいになっちゃうしっていうことだから、物語が動かないんだよ。
    物語を動かすには必ずけんかが起こんなくちゃいけないじゃん。けんかが起こるときに2対1だと、1が引っ張られて動くから。必ずどっちかの方向に動いていかなくちゃいけないから、作るためにはね。そのときにいい感じでバランスが崩れるっていうことが大事なのね。そうしないと、出来上がらないことが起こるね。
     大体、2人で話しているとそこで終わっちゃうんだけど、そこでもう一人いて、「それ、本当に作ろうよ」って言い出すやつがいないと駄目なんだよね。役どころみたいなバランスってあるんだよな。

    和解役にもなるってことですか。

    菊田そう。また、本当にそれが調子いいときって、ばっちりな人間が集まるんだよ、その役どころみたいな、ちょうどよくこいつがここにいるんだな、みたいな。そういう形でうまく集まれる最小単位が3人で、それが集まると一番作りやすい。経験的なもんだけどね。


    最後に、今回リリースさせていただくパックについて、『The Calm』と『The Fury』というテーマに分けて発売を予定しています。今回のパック全体を通してどんなジャンルのゲームに合っているかとか、もしくはどんなゲームに使ってほしいかとかありますでしょうか?

    菊田一応、もともとRPG的な要素があるものだから、それが一番合うだろうとは思う。ただ、自由に自己表現するっていうことが一番重要だっていうこと。更に、この音楽の中にいろいろな自由のフックをいっぱい詰め込んでいるんで、この音楽から発想できることっていっぱいあるだろうなって思っています。

    音楽を聞いて、これはきっとこういうシーンに合うとか、こういう表現に合うとか想像するということ。

    菊田そう。そのための仕掛けがいっぱい入っている音楽だから、そこを楽しんでもらえると、一番うれしいかな。
    だけどたいていは、ゲームっていうか、その世界観を表現するための音楽を作るから、あまり音楽側から発信していく『ゲーム音楽』って普通はないからね。これはそういう音楽になるっていう珍しいものなので、そういう意味では、開発する、あるいは使う側も楽しいよっていうのはあると思うね。
     幅も結構広いし、感情表現としては特殊で暗い表情みたいなのも入っているから。逆にそういう普通は抱かないような感情のあやみたいなものまで、音楽で描いているから。これをどういうふうに使うっていうのを考えていくのがきっと面白いんじゃないのって、俺は思うね。

    これは、生まれてくる作品が楽しみですね。

    菊田だから、あの音楽に合わせて1枚の絵を描くだけでも、それは面白いと思うよ。何か発想してくれるんだったら、それはとてもうれしいね。

    菊田裕樹(きくたひろき)
    作曲家、編曲家、ゲームデザイナー。数々の著名ゲームやテレビアニメの音楽を担当する傍ら、同人誌即売会でのCD販売など、同人方面でも広く活躍している。今年2月には「RPGツクール」向けのオリジナルBGM素材集、『The Calm』『The Fury』の発売を予定。

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